オコゼ

オニオコゼの別名

オニオコゼは、その容貌と毒のせいで印象が強いためか、各地方によって様々な名で呼ばれています。広島県の「オコジン」や新潟県の「オコジョ」はオコゼが訛ったものですが、静岡県では「ボウチョオカサゴ」と呼ばれます。「ボオチョオ」とは方言でカサブタのことで、「カサブタのあるカサゴ」という意味になります。オニオコゼの見た目をよく捉えた呼び名です。淡路島では「イジャジャミ」と呼ばれます。漢字では「棘棘魚」または「苛苛魚」と書き、元々は「イライラミ」と呼ばれていたものが訛ったと言われています。こちらはオニオコゼが持つ毒のトゲから名付けられた呼び名だと思われます。和歌山県では「ツチオコゼ」と呼ばれます。頭が大きく体が細いというオニオコゼの外見から「槌(ハンマー)のような形のオコゼ」と呼ばれたのでしょう。

どれもオニオコゼの特徴から名付けられたものですが、それぞれ着眼点が違うところが面白いところです。ちなみに英語ではDevil Stin-ger(刺す悪魔)やScorpion Fish(サソリウオ)と呼ばれます。どちらも毒のトゲから名付けられたものですが、世界中どこでもオニオコゼの印象は同じようです。

魔除けのお守り代わり?オコゼの干物

また、沖合いに棲んでいるオニオコゼには体が赤みがかっているものがいるため、漁師の間では「アカオコゼ」と呼ばれて区別されることもあるようです。さらにオニオコゼには、全国各地で「ヤマノカミ」と呼ばれたという伝承があります。かつて猟師の間では、山の奥深くで人喰い鬼婆に出会ったらオコゼの干物を投げつけて逃げろ、醜い鬼婆は自分より醜いオコゼに気を取られるので、その隙に逃げられるという言い伝えがあったそうです。そのため、魔除けのお守りとして「ヤマノカミ」と呼ぶようになったと言われています。

他にもオコゼ自身に神様の力が宿っていると考え、紙に包んだオコゼの干物に対して猟師が「獲物が穫れたら紙を開いて解き放ってあげよう」と頼むからという話や、山の神様がとてもオコゼを見たがることにつけこんだ猟師が「獲物を獲らせてくれたらオコゼを見せてあげます」と祈るからという話もあり、「ヤマノカミ」と呼ばれるようになった由来は本当に様々です。

三重県に伝わるオコゼ伝説

三重県尾鷲市の矢浜地区には二百年以上の歴史を持つ奇祭「山の神笑い祭」があり、次のような伝説が残されています。
『昔々、山の女神様と海の神様の間で山の幸・海の幸を集める勝負がありました。同数引き分けになろうとしたところにオコゼがひょっこり現れ、おかげで山の女神様は勝負に負けてしまいました。
そのせいで負けず嫌いな山の女神様はオコゼを酷く恨むようになったので、村人達は女神様を慰めるために「こんな醜いものは魚ではありませんよ」と懐に入れたオコゼをちらちら見せながら笑い飛ばすお祭りをはじめることになりました。』

いろいろなエピソードに囲まれながら、海と山を取り結ぶオニオコゼ…ちょっと不思議な魚です。

Fのさかな20号オコゼより