ズワイガニ

日本周辺に棲むズワイガニの仲間

日本周辺に生息するズワイガニの近縁種には、ベニズワイガニとオオズワイガニ(バルダイ種)がいます。
ベニズワイガニはズワイガニに比べ甲羅の形が三角形なのと、生きているときからかなり赤いことで区別がつきます。ズワイガニに比べ身肉に水分が多いため味はやや劣ると言われていますが、食感は繊細で甘みがあり、価格も手頃であることから人気があります。
オオズワイガニはズワイガニと外観や体色がよく似ていますが、ズワイガニは口の上の部分が水平になっているのに対し、オオズワイガニではM字形になっていることで区別できます。身が大きく甘みがあるのが特徴です。
両種ともにズワイガニとの間に交雑種ができます。
また、通称で丸ズワイガニと呼ばれるカニもいますが、こちらはズワイガニの仲間ではなく、和名をアメリカオオエンコウガニと言い、南米やアフリカなどの南大西洋岸で採られるカニです。

加能ガニのゆであげ作業
加能ガニのゆであげ作業

食卓でお馴染みの他のカニ

ズワイガニ以外に食卓に馴染みのあるカニには、毛ガニとタラバガニがあります。
毛ガニは、文字通り甲羅から脚の先まで生えている硬い毛が名前の由来になっています。この毛が生えている理由には諸説ありますが、はっきりした理由はわかっていません。
毛ガニが美味しい食材として有名になったのは、戦後になってからのことで、食料品統制を受けていた戦時中にしかたなく茹でた毛ガニを売り出したことがきっかけとなり、終戦後、人気を博すようになったそうです。
また、モクズガニも鋏に柔らかい毛が密生しているため、地方名で毛ガニと呼ばれることがありますが、違う種類のカニです。仲間に中華料理でお馴染みのシャンハイガニがいます。
タラバガニという名前は、鱈の漁場に棲んでいるカニという意味です。鱈漁の際、偶然発見され、漁が行われるようになりました。近い仲間にアブラガニがいます。
小林多喜二の『蟹工船』に出てくるカニはタラバガニだと言われており、蟹工船で作られるタラバガニの缶詰は、かつて日本の有力な輸出産品でした。
タラバガニは、カニとは呼ばれていますが、実はズワイガニや毛ガニのような真のカニ類ではありません。脚の数など体の特徴を見ると、ヤドカリ類と共通している点があり、「カニの形をしたヤドカリの仲間」というのが正体のようです。

ズワイガニの地方名・ブランド名

ズワイガニは、水揚げされた地方や港によってタグが付けられ、それぞれ地域ブランドとして差別化を図っています。
ヨシガニ〈北海道・山形〉、加能(かのう)ガニ〈石川〉、越前(えちぜん)ガニ〈福井〉、間人(たいざ)ガニ〈京都丹後半島〉、津居山(ついやま)ガニ〈兵庫〉、松葉(まつば)ガニ〈鳥取〉

雌は、雌(め)ガニ、親(おや)ガニ、コッペガニ、香箱(こうばこ)ガニ、勢子(せいこ)ガニ、クロコと呼ばれています。

ベニズワイガニ
ベニズワイガニ
石川県のズワイガニ(加能ガニ)のオスとメスの大きさ比べ
石川県のズワイガニ(加能ガニ)のオスとメスの大きさ比べ

Fのさかな17号ズワイガニより

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世界食料デー月間〜みんなで食べる幸せを〜

世界の食料問題

10月16日は世界食料デー。国連が制定した世界の食料問題を考える日です。日本では、世界食料デーと前後する10月1日~10月31日を「世界食料デー月間」としています。
世界では、飢餓や関連する病気のため、毎日25000人が亡くなっています。飢餓の原因は、戦争、内紛、伝染病など人為的なもの、干ばつ、地震など自然災害、貧困、農業生産量の低下などで世界の食料確保の問題は、きわめて深刻な状況です。これに金融危機が拍車をかけ、飢餓人口は、今後さらに増えるとみられます。
2010年、慢性的飢餓人口は、9億2500万人。6秒に1人、子供が飢えで亡くなっています。FAO(国連食糧農業機関)事務局長ジャック・ディウフは「飢餓が世界の最も深刻なスキャンダル、最大の悲劇であることには変りはない」と述べています。
穀物が消費される先を見てみると、半分以上が直接食べられていません。例えば牛肉1キログラムを生産するためには、7~11キログラムもの穀物が餌として消費されています。また、石油に代わる環境負荷の少ないエネルギーとしてバイオ燃料生産の取り組みは、限りある穀物の奪いあいを生み出しています。さらに食料を国際市場で購入して高値で売り払う投機マネーの流入が価格を押し上げ、開発途上国が食料を買いたくても買えないという事態も招いています。
また、開発途上国の中には、主食となる穀物を海外からの輸入に頼るという構造的な問題も抱えています。自国で生産できない食品の消費が増えている事情もありますが、植民地時代に支配国から換金作物の生産を押し付けられ、限られた農地でのコーヒーや、カカオを作っているという歴史的な背景もあります。一方ではオーストラリアでの大干ばつ、アメリカを襲った巨大ハリケーン、ヨーロッパでの熱波など先進国でも対応できない、温暖化による自然災害が発生し、世界全体に穀物の生産に影響がでています。アメリカやオーストラリアなど主要な輸出国の生産量が減り、資金のある国が競って買い集めたら、開発途上国には手が届かなくなってしまう可能性があります。

輸入に頼る日本

かつてフランスのド・ゴール大統領は「食料自給率が100パーセントに満たない国は独立国とはいえない」と言いました。先進国と呼ばれる国々は自国の食は自国で賄う考えが浸透しており、ほかの産業とともに、農業にも力を入れることが当然のこととされています。
食料の60パーセント以上を海外からの輸入に頼る日本。先進国の中でも最低水準の食料自給率です。
それにも関らず、1年間に消費する9100万トンの食材のうち、1900万トンが捨てられています。そのなかにはまだ食べられるはずの食べ物が500~900万トンも含まれているといわれています。
食料だけではなく、食料を生産するために必要な土地や水などの資源も海外に頼り、輸送のための大量なエネルギーを消費することで成り立つ私たちの豊かな食生活。国境を越えて食料が売り渡されることが当たり前になるなかで、先進国に住む私たちの生活を見直さなければ解決できないのは、環境問題だけではなく、食料問題も同じです。
現在、日本の農業就業人口は260万人。平均年齢65・8歳。農家及び土地持ちの非農家耕作放棄地面積は40万ヘクタール(埼玉県の面積程)。2009年 農林水産省 農林・食料関連産業の経済計算報告書によりますと、稲作農家の家族労働報酬は1日2598円だそうです。このままいきますと、日本も主食のお米を輸入に頼る事になるでしょう。輸入で買えなくなったとしたら、みなさんどうされますか?

◇参考資料
 FAO(國際連合食糧農業機関)日本事務所 プレスリリース
 WFP(国連世界食糧計画)
 農林水産省 「2010年 世界農林業センサス結果の
   概要(暫定値)(平成22年2月1日現在)」について
 農林水産省 産業構造統計課

Fのさかな17号ズワイガニより

アマダイ

地方によって異なるアマダイの呼び名

アマダイには各地でいろいろな呼び名があります。京都や福井ではグジ、大阪や福岡、長崎県の壱岐ではクズナ、静岡ではオキツダイ、山陰地方ではコビリまたはコビル、愛媛ではスナゴなど。
グジはアマダイの地方名の中でも最も有名でしょう。前述したように、アマダイは古くはクズナと呼ばれていましたが、そのクズナがいつしかクツと縮めて呼ばれるようになり、やがてグジへと変化したと言われています。
グジと言えば、福井県の若狭湾で水揚げされる「若狭グジ」は全国的にも知られるブランド魚ですし、京料理では欠くことが出来ない素材です。サバ街道を通って京の都へと運ばれたアマダイは、「若狭もの」と呼ばれて昔から珍重されてきました。
また、地方には現在でも古い言葉が残されていることがありますが、壱岐などで呼ばれるクズナはその典型と言えるでしょう。
コビリ(コビル)は、アマダイが他の「タイ」がつく魚に比べて小さいことから来た呼び名だと言われています。なので、ひょっとしたら「小振り」が訛ってコビリになったのかもしれません。
愛媛での呼び名スナゴは、アマダイが砂に潜る習性から「砂子」と呼ばれたのでしょうか。
中国では、その角張った頭の形から「馬頭(マータウ)」と呼ばれるようです。アマダイの中でもシロアマダイは白っぽい体の色から「シラカワ」と呼ばれることもあります。

徳川家康とアマダイ

アマダイは静岡ではオキツダイと呼ばれます。この呼び名には様々な由来が伝えられています。 最も有名なのは、興津局(おきつのつぼね)と言う女性から来たと言うものです。
昔、徳川家康が静岡の駿府城に滞在していた時、その興津局が生干ししたアマダイを献上したそうです。そのあまりの美味しさに喜んだ家康はアマダイを「興津鯛(おきつだい)」と名付け、功を労ったと伝えられています。
また、ある時、御膳に並べられたアマダイを見て、家康が興津局に「これ、興津、鯛か?」と訪ねたのが由来とも言われています。
他には、駿河湾の奥(奥・津=港から離れたところ)で獲られることから「奥津鯛」と呼ばれるようになったという説もあります。
そういえば、駿河湾で獲られるアマダイのウロコは富士山の形をしているとされ、武士の間では縁起物として珍重されたそうですが、実のところ、どこで獲られてもアマダイのウロコの形はみんな同じ。きっと武家の頭領である徳川家にあやかることで縁起を担いだのだと思われます。
ところで徳川家康といえば、「鯛の天ぷらによる食中毒で死んだ」というお話は有名です。
本当は天ぷらではなく南蛮漬けだったという話もありますが、それはさておき、この料理に使われた魚がアマダイだったと言われています。
実際には家康がその料理を食べてから亡くなるまでに3ヶ月も経っていますので、このお話は俗説でしかなく、本当の死因は胃がんではないかとされています。
おそらく為政者を笑うことで庶民は気晴らしをしていたのでしょう。

アダマイ
アマダイ


Fのさかな25号アマダイより

アイナメ

地方によって異なるアイナメの呼び名

アイナメは、鮎並」・「鮎魚女」・「愛魚女」といろんな漢字で書かれ、それぞれに由来があります。産卵期に縄張りを守って互いの口でかみ合うことから「相嘗」と書かれることもあるそうです。
この魚は昔から親しまれているため、各地には様々な呼び名があります。北海道では「あぶらこ/あぶらっこ(油子)」、東北と関西・四国では「あぶらめ(油魚)」。 これらはまるでアイナメの体に油が塗られているように見えたり、身に脂が多いためにこう呼ばれるようになったようです。
また、同じ場所にじっとしている習性から、東北の一部では「ねう/うえうお(根魚)」・「しんじょ(寝所)」、新潟や丹後では「しじゅう/しじょう(始終)」と呼ばれています。
能登半島では「あぶらめ」と呼ぶことが多いのですが、「しじゅう」と呼ぶ地域もあります。
広島県では「もみだねうしない(籾種失)」という変わった名前になります。この魚をご飯のおかずにすると種もみまで食べてしまうほど美味しいからとか、美味し過ぎて大切な種もみを買うお金をはたいてでも食べたくなるからだそうですが、面白い呼び名もあるものです。
他にも「ええなあ」「こっくり」「とろろ」など、各地方独特の呼び名があり、アイナメの愛され具合がわかります。
英語ではKelpfish(ケルプフィッシュ=藻場の魚)、greenling(グリーンリング=海藻に似た魚)、中国語では学名と同じように「六線魚」と呼ばれます。

あぶらめと輪島塗

石川県能登半島の輪島市といえば、輪島塗が有名です。 輪島塗は職人達の丁寧な手作業によって生み出される漆器の名品。塗りに124もの工程を費やすことで、堅牢優美な漆器が生まれます。
そんな輪島塗に携わる職人はずっと座ったまま仕事をするので、どうしても運動不足になりがちです。そのため、かつての輪島塗の職人達は秋になると一日仕事を休みにして「あぶらめ釣り」に出かけ、英気を養ってきました。
その折、「粋」が真骨頂の職人は自ら「あぶらめ」専門の釣り竿を作り、それに得意の漆芸の腕をふるったといいます。
さて、「あぶらめ釣り」の日になると、職人達は夜明け前から釣り竿をおろし、後から来た女性陣や弟子達は海辺に簡単なカマドを作ります。
釣りたての「あぶらめ」を軽く焼いてから野菜と一緒に鍋に入れれば、青空宴会の準備は万端。釣りの成果を自慢しながら、にぎやかな宴が始まります。現在では秋のレクリエーションとして「あぶらめ釣り」を行う塗師屋さんも少なくなったようですが、伝統ある行事として未来に残ってほしいものです。

Fのさかな24号アイナメより

マグロ

しゃちほこの初代モデル

奈良時代から平安時代の寺院や仏殿建築の棟飾りに見られる鴟尾(しび)は、中国伝来で建物を火災から守るといわれるもの。奈良県の唐招提寺金堂の鴟尾が有名。
大きな魚の尾が天上に向けて突き出ている様は、屋根を海に見立て、水中にある建物は燃えないというわけ。この大きな魚はマグロがモデルだったそうです。これが後世にしゃちほこに変化したとのこと。

寺社の棟飾りのしゃちほこは、マグロがモデルといわれる
寺社の棟飾りのしゃちほこは、マグロがモデルといわれる

大掛かりな解体

イベントの目玉企画として行われるマグロの解体ショーは、見事な庖丁さばきと職人技で観る人を惹き付けます。
大きなマグロの解体には何本もの刃物を使いわけます。中には日本刀のような刃渡りの長いマグロ卸庖丁を使うこともあり、刃物を扱う人、動かないように押さえる人など数人がかりで手際よく行います。

大勢で役割分担して行われるマグロの解体ショー
大勢で役割分担して行われるマグロの解体ショー

熱血なわけ

多くの魚類は冷血なのにマグロの体温は高いことで知られます。
マグロの動脈血はエラの毛細血管を通る際に、海水で直接冷却されるため低温。一方、体内を巡ってきた静脈血は運動熱で高温。
マグロの体内ではこの動脈血と静脈血が並行して逆方向に流れる部分で、動脈血が静脈血より効率よく熱を受取るため高体温を維持している。このため運動機能が維持され高速遊泳を可能にしています。

尾を切り落とす謎

輸入される冷凍クロマグロは輸送コストを削減するためヒレや内臓などを取り除いた状態のものが多い。
冷凍物は、切り口を手かぎで掘って肉を指で練りながらその感触で判断します。生の場合は、赤身の色艶や脂ののり具合で良し悪しを判断。内臓を取った腹部を懐中電灯で照らし、色で脂ののりを見わけることもあります。
ちなみに、ブロックになった身肉は、背側を背節(赤身)、腹側を腹節(トロ)と呼び更に頭側から尾側に向いカミ、ナカ、シモと区別され、それぞれの部位は味や価格が異なります。

尾を切り落とし、切り口から肉の感触を確かめ、良し悪しを判断する
尾を切り落とし、切り口から肉の感触を確かめ、良し悪しを判断する

Fのさかな16号マグロより

今、日本の食を考える

日本の食文化は日本の食材で

世界が目を見張った日本の高度成長は、私たちに世界第二位の経済発展をもたらしました。しかし一方で、自然に依存する第一次産業は、工業化と急激な森林開発の波にさらされ、環境破壊という大きなツケを二十一世紀に残しました。便利さ、快適さと引き換えに食糧を始めとする物資供給の外国依存が増え、減反政策と相まって自給率は40%以下と先進国では最も低く、「飽食の国日本」は、食の変化とともに世界一の食糧輸入大国となりました。これは、古代ローマ帝国が滅亡した自給率低下と同じプロセスと言われております。欧米を中心とする先進諸国では、食の侵略から国を守るため、自国の食は自国で賄うという考えは当然であり、他の産業とともに農業生産の維持と向上を図っています。

今、日本人を支えている食材の大半は日本以外の国で賄われ、食の安全を海外に委ね、一方で、大量の食べ残しを捨てています。食べ物に不自由しないと、命を縮めると言いますが、国土の豊かな田んぼや畑を守ることは日本人の命を守ることでもあります。私たちは自らの食卓を見直し、子供の躾から食材の流通経路や選び方、使い方・捨て方までを含め、もう一度考え直す時期に来ているのではないでしょうか。

たくさんの水を買っている日本

〝大量の食糧を輸入する”ということは、〝大量の水も一緒に輸入する”ということです。この事実を日本人はもっと真剣に考えなければなりません。2050年には70億人が深刻な水不足に陥る恐れがあるといいます。しかし日本では、「世界の水危機」といわれても実感できないほど水資源が豊富です。水というと、飲み水と生活用水を連想しますが、日本は多量の食糧を輸入しているため、自国の水資源を使わず、生産国の貴重な水資源を使っているという当たり前の事実をほとんどの人は知りません。こうした食糧生産に必要な水、バーチャルウォーター(間接水または仮想水)の消費量もまた世界一位です。日本は「食糧輸入大国」と同時に「水の輸入大国」でもあるのです。

地球温暖化や気象の変動で降水量が減り、干ばつに見舞われる国がもっと増える可能性もあります。世界の水危機は日本の食糧危機を誘発することを考えると、私たちは意識して国産品を買い、食べものを粗末にしないで水を大切に使う日常の心がけが必要です。

フードマイレージ

この言葉は、日本の或いは世界の「食の危機」を考える上で、必ず登場する言葉です。農場や魚場から消費者の食卓まで運ぶ輸送距離をフードマイルといい、地球環境に与える影響の大きさを表す指標をフードマイレージといいます。
例えば高級魚のマグロは何千キロの距離を空輸するとなるとエネルギー消費量と二酸化炭素の排出量は膨大になります。また、国内であっても、トラックや飛行機などの排気ガスが大気を汚染し、二酸化炭素を大量に増加させます。できるだけ地域内で生産された農水産物を消費することで環境に与える負荷を軽くしたいものです。

昔は自給自足で、人間の呼吸以外に炭酸ガスを排出する道具はありませんでした。食品の安全性の面からも、作った人の顔が見え、新鮮でおいしく、環境に優しい、エネルギーの無駄づかいのない、地消地産の食べ物の価値を改めて見直したいものです。

◇参考資料
 『戦後史』中村政則 岩波書店
 『食育のすすめ』服部幸應 ローカス
 『日本人の“命”を縮める「食」』郡司和夫 三笠書房
 『食育の本』服部幸應 マガジンハウス

文:NPO日本食育インストラクター会員 佐味慶子(認定B2-090002)

Fのさかな15号コノシロより

「江戸しぐさ」に学ぶ

「江戸しぐさ」と「江戸ソップ」

江戸しぐさは、江戸商人のトップに立つ人達、今で言えば経団連のメンバーに匹敵する江戸企業家の心構えといえます。
つまり、江戸城下町のリーダーの生き方、考え方、口のきき方、身のこなし方、行動をさし、人の上に立つ人達の実践哲学ともいえるものでした。同時に万民に役立つグローバル・スタンダードとして通用する江戸の感性でもありました。
「江戸しぐさ」の基本となるのは健康、つきあい、平和の三つの教えで、健康で明るく、楽しく暮らそうというのが基本ですから氣(神経)をわずらうのが一番身体にさわるとおそれられていました。そんな時は一に眠り、二に眠り、三に赤ナス(トマト)、四にめざしと言ったそうで、睡眠をたっぷりとれば、たいがいの疲れはとれ、それでも良くならない時は、栄養のあるトマトやめざしを食べれば良いと考えたようです。滋養をつけるには江戸ソップ(スープ)という栄養食があり、根菜類(人参、大根、ごぼう)や椎茸などのきのこ類を親指の頭ぐらいに切り揃え、昆布の出し汁で、時間をかけてコトコト、ほほ笑むように煮れば、湯の中で気持ちよくなった野菜たちが、大地で十分に吸収した恵み(エキス)を静かに吐き出してくれると言い伝えられてきました。貴重な薬のように扱い、病人のためや、災害時にも活躍した江戸の野菜スープは、野菜の持ち味だけで塩さえ入れず、今でも時間のかかるコンソメスープのようでした。
また「江戸食事仕様」には非常時の保存食や加工食の教えが残っています。米を蒸してこねた、ねじり棒は、浴衣やかたびらの襟元に非常食糧として縫いつけ、その味は昭和になっても変らなかったそうで、まさに江戸っ子の英知には驚かされます。
「水清く入り江のありて真魚豊か四方見渡せる商いの町」と言われた江戸。人口の半分を町方と呼ばれる庶民が占めましたが、居住面積は江戸全体の十六パーセント。狭い一角に住み、袖摺りあう様な所で他人と共存しながら気持ちよく暮らすため互助、共生(思いやり)の精神から、八百とも八千あるとも言われる「江戸しぐさ」が生まれたともいえます。この「江戸しぐさ」をできる人が真の江戸っ子だったようです。

食医同源

中国の周の時代、「周礼」という書物によると食医、疾医、瘍医、獣医の四分科があり、食医は食事と衛生を専門とした最高位の医師であったと記されています。食医は皇帝のための宮廷医ですが、一部の高貴な人のためとはいえ、健康と命を守るための栄養管理や食事療法などを行い、「食養生」の研究がなされていたようです。
日本でも江戸中期、食生活と健康法に関心をもった貝原益軒が「養生訓」(腹八分目の原点が記されている)を著し、明治時代には、〝心身の病気の原因は食にあり〟とした石塚左玄が「陰陽調和」や「身土不二」(自分の生まれ育った土地の食べ物がもっとも身体に良い)や「一物全体」(食物は一部分より全体を食べるべきである)で正しい食のあり方を主張しました。それほど昔は食を大事にしていました。
人は食べることで元気になり、おろそかにするだけで、不調になったりもします。現代の食生活は一見豊かであるようですが実際は、三食すべてファーストフードで済ませたり、加工食品ばかり食べたり、栄養をサプリメントで摂ったりと「食」をおろそかにしている例が数多く見られます。
病気を治す医療機関は立派になり、手術の技術もあがってきたかもしれません。それは、あくまでも発症してしまった病気を治す対処療法にすぎません。それよりも病気を起こさずに、身体の健康状態をどう保つかを考えることが、本来の医学のあるべき姿ではないでしょうか。予防医学として「食」からも医を学ぶ時代に来ていると感じております。

◇参考資料
 フリー百科事典 ウィキペディア
 『商人道「江戸しぐさ」の知恵袋』越川禮子
 『食の堕落と日本人』小泉武夫
 『食がこどもたちを救う』服部幸應

文:NPO日本食育インストラクター会員 佐味慶子(認定B2-090002)

Fのさかな16号マグロより

イワシ

iwashibo

昔、大衆魚だったイワシ、今は高級魚に

イワシと言えば誰もが知っている馴染みの魚です。大量に捕れた時には食卓に上る機会も多く、飽きてしまうこともありました。マイワシは数十年周期で豊漁と不漁が繰り返されていることをご存じでしょうか?不漁期に当たる近年は以前より店頭に並ぶことも少なくなり、たまに大羽と言われる大きなマイワシがあがると高級魚扱いになることも珍しくありません。名前の由来は、いやしい魚→いやしが訛って「いわし」。弱い魚なので「よわし」→「いわし」に転じたとも言われます。

 

 

イワシの生態

主にマイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシの3種類を総称して「イワシ」と呼んでいます。イワシを漢字で書くと、魚ヘンに弱と書いて「鰯」となり、文字通り鮮度落ちが早く、すぐに死んでしまったり、サバやアジ、カツオ、マグロなどの肉食性魚類や、クジラ、イルカ、人間などに食べられてしまう弱い魚なのです。

しかしイワシが少なくなると、それを栄養源にしている魚類にも影響が及び、弱い魚といえども食物連鎖では重要な位置を占める大切な魚なのです。食物連鎖で重要な位置を占めるイワシ類は、孵化しても殆どがマグロやカツオ、アジなど他の魚の餌になることが多く成魚になるまでの生存率は低いのです。このようにむさぼり食われるため「海の牧草」と呼ばれるほど。そんなイワシ類は種族が絶えないように他の魚類に比べて産卵数の多いことが特徴です。

餌食になるイワシには敵の攻撃をかわす技があります。密集した大群を作り、大きな塊ごと一斉に同調した泳ぎで敵の攻撃をかわすのです。

イワシは、海の表層近くを浮遊するアミ類、エビ・カニの幼生、ヤムシ、魚卵などの微小な動物プランクトンを摂餌。マイワシは珪藻類などの植物プランクトンも食べます。口を大きく開けて泳ぎ、海水ごと飲み込み密生した鰓耙(サイハ)でプランクトンを濾過摂食します。

 

 

イワシの種類と特徴

マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシの外見的な違いは体の黒斑点や口、眼、腹びれの位置などで容易に判別できます。

まずマイワシは体側に7つ前後黒い斑点が並び、別名「ナナツボシ」と呼ばれます。マイワシは、日本海各地の沿岸、渤海、黄海、東シナ海、南シナ海、オホーツク海、北西太平洋に広く分布。大きな群れで広域に季節回遊します。体形は細長くやや側扁。体色は暗青緑色、腹部は銀白色。体側に1〜2列の7つほどの黒色斑点があり「ナナツボシ」とも呼ばれます。この黒点がはっきりしているものが鮮度が良い。体長は25cmに達します。新鮮なものは、寿しネタや、刺身で、かば焼きや天ぷらで食べられます。別名は、イワシ、ナナツボシ、ヒラゴ、オイサザ、ヤシ【真鰯・ニシン目ニシン科マイワシ属】

 

ウルメイワシは、マイワシに似ていますが黒色斑点がありません。眼は脂瞼とよばれる脂肪膜に覆われているため潤んで見えます。体形は細長く円筒形。体色は暗青色、腹部は銀白色。胸びれと腹びれは黒みがかっています。大物は体長は30cmほどに成長します。ウルメイワシの腹びれは、背びれ起部より後方に位置しています。別名をウルメ、ノドイワシ、ドンボイワシ、メブトイワシ、 ロウソクイワシ、メグロイワシ、センキ、オオメイワシ、ギドと呼んでいます。【潤目鰯・ニシン目ニシン科ウルメイワシ属】

 

カタクチイワシは、体形は細長く円筒形。マイワシに比べて背が青黒いため「セグロ」とも呼ばれます。腹部は銀白色をしていて、ワシは下あごが短く上あごが突き出て見えます。カタクチイワシの腹びれは、背びれ起部より前方に位置しています。カタクチイワシは下あごが短く上あごが突き出ていて、口の形が片寄ってみえることが名前の由来。マイワシ、ウルメイワシと比べてもカタクチイワシの口は大きく眼の後方まで続いています。体長は13cm前後に成長し、カツオの生き餌釣りに使われます。煮干しやシラス、ちりめんじゃこなどに加工されます。お正月のおせち料理に欠かせない田作りに使うイワシは、カタクチイワシの幼魚です。別名は、カタクチ、ヒシコイワシ、セグロイワシ、タレクチイワシ、シコ【片口鰯・ニシン目カタクチイワシ科カタクチイワシ属】

 

イワシは、成長の段階による呼び名もあり、3.5cm以下をシラス、3.5〜6cmはヒラゴ、カエリと呼びます。6〜12cmはコバ(小羽)、12〜18cmになるとチュウバ(中羽)。18cm以上はオオバ(大羽)になり、さらに20cm以上の大型はオオガライワシで高級魚として扱われます。

 

 

イワシの栄養

イワシ類は良質のたんぱく質と、病気に対する抵抗力を高め精神を安定させる効果があるカルシウム、その吸収を助けて骨を丈夫にするビタミンDが豊富に含まれます。

血合部分には、皮膚の弾力性を保ち唇のあれを防ぐビタミンB2、悪性貧血を予防、肝臓の強化に役立つビタミンB12、低血圧症や貧血の予防に役立つ鉄分もあります。また脂肪の代謝に深いかかわりがあるB6も多く含み、不足すると皮膚炎、神経炎、肥満、動脈硬化になりやすい。さらに血圧を正常に保つタウリン、血栓の予防や脳の老化防止に役立つEPAやDHAは、青魚の中でも含有量が多く生活習慣病には最強の味方です。ただし、鮮度が落ちると酸化によって逆効果になることも。

 

イワシの目利き

北陸地方では「カゲを見よ」ということがあります。「カゲ」とは鰓蓋を開けると中にブラシ状の鰓耙といわれる部分があり、これを指します。この部分が赤くみずみずしい色をしていれば新鮮な証拠です。目利きのポイントは、眼が澄んで、ふっくらしていること。イワシは鱗がはがれやすく、鱗が残っていれば取り扱いが良好だった証拠。店頭に並ぶ時は鱗がはがれたものが多い。マイワシなら黒点が明瞭なこと。鮮度が落ちると薄れます。体色が鮮明で張りがあること。

 

イワシの食文化と料理

大衆魚の代表であるイワシは、塩漬け、煮干、干物、オリーブ油漬けなどさまざまな加工品が出回っています。このような加工品は山間地域の人達にとって、塩分、たんぱく質、カルシウムなどの補給源として欠かせない貴重なものでした。

イワシを使った自慢の郷土料理は全国にたくさんありますが、加賀や能登にも「こんかいわし」というものがあります。イワシの糠漬けのことを米糠がなまって「こんか」と呼びます。流通事情が悪かった頃に冬の保存食として重宝されたもの。荒天続きで出漁できない時期の食材の一つで、大漁で安値の時にイワシを買込み各家庭で糠に漬込みました。そのまま焼いて香ばしくご飯のおかずに。糠を洗い落として薄切りにし酢をかけてもよし。こんかいわしの旨味と塩味を生かし、野菜と酒粕を加えた鍋料理「べか」(石川県羽咋)も冬場の人気メニューです。