身近だけど不思議な「マナマコ」/さかなの日
文豪 夏目漱石は著書「我輩は猫である」の中、「始めて海鼠を食ひだせる人は其胆力に於て敬すべく、始めて河豚を喫せる漢は其勇気に於て重んずべし」と彼への手紙を引用したほど海鼠のグロテスクな姿や感触は、強烈で印象的。
島根県の隠岐では、砂おろしになるとして節分にナマコの酢のものを食べるそうです。
海鼠の腸を塩辛にした高級食材「このわた」は日本三大珍味としても知られています。
今回は能登内海の特産でもある「マナマコ」についてご紹介します。

マナマコは3種類いる?
マナマコは、棲んでいる場所によって体色が違います。背が栗色と褐色が混ざり合い、腹が赤いアカナマコ(アカコ)、背が暗青緑色で、腹が黄から青色をしたアオナマコ(アオコ)、背も腹も黒いクロナマコ(クロコ)の3つの型があります。
アカナマコは主に外洋の岩礁や転石帯に生息し、アオナマコやクロナマコは内湾の砂泥底に多く棲んでいます。
これら3種類は同じ種類として分類されていますが、前に書いたように生息域が違うほか、餌や体の特徴、習性などで少しずつ違いがあることから、最近では分類学上、別種や亜種として扱った方がよいのではないかという意見もあるようです。
関東地方では身に弾力があって柔らかいアオナマコ、関西地方ではコリコリとした食感が強いアカナマコに人気があります。クロナマコは身が固いため、生食よりも干ナマコとして加工することが多いようです。

硬軟自在!様々に変化する体と驚く程の再生力
無脊椎動物であるマナマコに骨格はありませんが、体壁の真皮の中には色々な形をした石灰質の骨片がたくさん散らばっています。この骨片は顕微鏡で見ないとわからないほど小さいため、「微小骨片」と呼ばれます。
マナマコを握ったりして刺激を与えると硬くなるのは、体を縮めることで微小骨片の密度が高まるためです。この硬さが変わる体組織は「キャッチ結合組織」と呼ばれ、場面に応じて様々に変化します。
熱帯に棲むシカクナマコの仲間には、手で握るとまず体を硬くし、次に「キュビエ器官と」いう白く粘り気のある糸のような組織を肛門から吐き出し、これが敵にまとわりつくことで攻撃を防ぎます。それでも逃げられないと判断すると指の間からドロドロと溶け落ちるほど体を柔らかくするものがいます。これも特殊な結合組織の産物ですが、不思議な生き物もいるものです。
熱帯のナマコの多くは「キュビエ器官」で身を守っていますが、マナマコにはこの器官がありません。そこでマナマコは何と腸を肛門や口から吐き出し、敵がそれを食べている間に逃げるのです。ですが、心配はご無用。マナマコは再生力が強いため、吐き出された腸は1〜3ヵ月で元に戻ります。
また、再生するのは腸だけではなく、体を真ん中から2つに切っても、それぞれが独立した個体として再生することさえあるといいます。
ただし、いくら再生力が強いとはいえ生存率が低くなってしまうことから、例えば1匹を切断して2匹に増やすというような虫の良すぎる養殖方法は無理のようです。

無口のせいで神様に怒られた?
ナマコは昔から日本人にとって馴染みのある存在だったようです。古事記の中には、猿田彦命(さるたひこのみこと)という神様が海の生き物達を集めて忠誠を誓うように命令したのですが、口の無いナマコだけが返事をしなかったので、猿田彦命の妻とされる天宇受売命(あめのうずめのみこと)という神様が怒って、ナマコの口を刀で切って作ったというエピソードがあります。
干ナマコは昔から珍重されていたようで、古代の法令である養老律令や延喜式の中には租税の一つとして記述されていますし、江戸時代に記された「本朝食鑑」という日本全国の食物を集めた図鑑にも食べ方や効能が紹介されていました。
また、江戸時代の古文書には『中居産の「このわた」が加賀藩から将軍家へ献上された』という記述があり、昔から名物とされていたようです。
栄養よりも食感を楽しむ
マナマコは、中国では朝鮮人参と同じくらいの薬効があるとされ、「海参(ハイシェン) =海の人参」と呼ばれています。漢方薬としては、生で食べると腎機能の強化や解熱など、加熱して食べると肝機能の強化や増血・血行促進、強精に役立つとされています。
体の9割以上を水分が占め、100g中のタンパク質は4.6g程度。またカロリーは23kcal、コレステロールが1㎎ 、脂質も0.3gと低いため、大変ヘルシーな食材です。
しかし、カルシウムなどのミネラル成分は比較的多く含んでいるものの、ビタミン類やアミノ酸などはイカやカニなどと比べても少なく、栄養成分的に特筆されるものはありません。
干ナマコにすると旨味が増すのは、干すことで身肉に含まれるグリシンなどのアミノ酸が濃縮することと、肉中に存在する酵素によってタンパク質が分解されてアミノ酸が増加するためと推測されています。
身肉にはコラーゲンを含んでいますが、これを口から摂取して健康や美容にもたらす効果については、科学的に十分証明されているわけではありません。コラーゲンはもともと生物の体組織中に普通に存在するものですから、効能を気にするよりも「マナマコの食感の素はこれなんだ!」と食感を楽しむほうがよいでしょう。


Fのさかなおもしろ図鑑vol.1で
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